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大阪高等裁判所 平成5年(ラ)183号 決定

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は別紙(執行抗告状写し)記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

本件は、原決定の別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)につき、有限会社ミツワ商行から同別紙担保権・被担保債権・請求債権目録記載の抵当権及び根抵当権の設定を受けた抗告人が、創建開発株式会社において本件不動産を有限会社ミツワ商行から賃借し、これを一瀬武光ほか二〇名に転貸しているとして、創建開発株式会社の一瀬武光らに対する賃料(転貸料)債権につき、抵当権の物上代位として差押命令を求めているものである。

よつて検討するに、抵当権者(以下、根抵当権についても同じ)は、民法三〇四条一項を準用する同法三七二条に基づいて、抵当権設定者が抵当不動産を賃貸して取得する賃料債権につき抵当権を行使することができるものと解すべき(最高裁判所平成元年一〇月二七日第二小法廷判決、民集四三巻九号一〇七〇頁参照)ところ、同法三〇四条一項が物上代位の目的につき「賃貸……ニ因リテ債務者カ受クヘキ金銭」と規定しているところからすると、物上代位の対象となる賃料債権は、文理上は債務者に帰属する賃料債権であつて、債務者の賃借人に帰属する賃料債権(転貸料)はこれに含まれないことになる。もつとも、右準用にあたつては、同項の「債務者」は、抵当権設定者、抵当不動産の第三取得者など当該不動産の所有者と読み替えることになるが、これら所有者からの賃借人もこれに当たるものと解する余地はなく、結局、民法の規定の文理に則して考える以上、転貸料債権については抵当権の効力は及ばず、これについて物上代位権を行使することはできないと解するよりほかはない。

また、転貸料の性質から考えても、これが抵当不動産の交換価値のなし崩し的実現と見るのは単なるひゆとしても無理であるし、これに物上代位権の行使を許すことは物上代位制度の本来の趣旨にもそぐわないものといわざるをえない。

もつとも、抵当権設定者(債務者)とその賃借人(転貸人)との関係や賃貸借・転貸借成立の経緯等から、その転貸料債権が抵当権設定者(債務者)の賃料債権と同視しうるものと推認されるような場合においては、実質上原賃料債権にほかならないものとして転貸料債権についても物上代位権の行使を認めるのが相当であるが、本件の場合、そのような推認の根拠となるような事情や資料は見当たらないし、また、有限会社ミツワ商行と創建開発株式会社との間の賃貸借契約がいわゆる詐害的短期賃貸借であると認めるべき事情や資料も存在しないので、そのような観点から転貸料債権に物上代位権の行使を認めるのも相当ではない。

以上のとおりであるから、前記「債務者」を「抵当不動産の賃借人」と読み替えることはできず、これを前提とする本件差押えの申立ては失当であつて原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤原弘道 裁判官 野村利夫 裁判官 楠本 新)

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